房総沖 震源断層データからみる房総沖三重会合点周辺の地下

戻る  

【実験版】特定のスペックをもつ複数の震源断層(震源断層群)の分布から仮想断層面を求めてみました。

房総沖では、東から太平洋プレートが沈み込み、 南からはフィリピン海プレートが太平洋プレートと東日本がのっているプレート(最近ではオホーツク・マイクロプレートが有力です。)の間に沈み込んでいて、 複雑な力がかかっています。
今回は、3つのプレートが重なる三重会合点周辺、図1の点線で囲んだ薄水色の範囲(中心緯度34.00°、経度141.80°、約120×100kmの矩形、走向0°)を対象にしました。
図中の地震は、いずれも太平洋プレート内またはフィリピン海プレートとの境界で発生しています。 注目する地震は、2004/05/30 M6.7、2005/01/19 M6.8、2016/09/23 M6.7です。

図1 対象地域で起きた主な地震 図1 対象地域で起きた主な地震
図1 対象地域で起きた主な地震

対象地域で起きた主な地震(M6.0以上)
年月日Mag緯度経度深さその他
1944/07/19M 6.2N 33.6465°E 141.6078°0km関東南方はるか沖
1953/11/26M 7.4N 34.1578°E 141.4035°39km房総半島南東沖
1953/11/26M 6.0N 34.3983°E 141.3552°10km房総半島南東沖
1953/11/26M 6.5N 34.0780°E 141.3972°27km房総半島南東沖
1984/09/19M 6.6N 34.0550°E 141.5483°13km房総半島南東沖
2002/12/11M 6.1N 34.2220°E 141.9530°35km房総半島南東沖
2004/05/30M 6.7N 34.1080°E 141.8590°23km房総半島南東沖
2005/01/19M 6.8N 33.9370°E 142.0188°31km房総半島南東沖
2016/09/23M 6.7N 34.396°E 141.844°31km関東東方沖

房総沖三重会合点の「三角形の穴」
新妻信明著「プレートテクニクス - その新展開と日本列島 -」の図キャプションに 「三重会合点はフィリピン海プレートの厚さに対応する三角形の穴が存在しなければならない。」(p.107) との記述があります。この「三角形の穴」のあたりをのぞいてみました(北緯34.25°、東経142.00°、深さ約9200m)。照明を強くしても穴が深くて暗いですが、なんとか見えるようです。 右の図は東側からのぞきみた図です。
※地形データは、日本海洋データセンターが公開している 「日本周辺の500mメッシュ海底地形データ J-EGG500」をベースにして緯度・経度沿いに加工しています。 カバーできないところは、アラスカ大学が公開している「GINA Global - Integrated - Topo/Bathymetry Grid」を使用。

図2-1 図2-2
図2 房総沖三重会合点の「三角形の穴」

房総沖三重会合点の「三角形」について、前掲の新妻信明著「プレートテクニクス」(p.106-110)からまとめてみました。

右の図で、点Aは、フィリピン海プレートの東縁が陸プレートに沈み込むところ。 点Bは、フィリピン海プレートの東縁に太平洋プレートが沈み込むところ。 点Cは、陸プレートの東縁南端に太平洋プレートが沈み込むところ。
・フィリピン海プレートは北西の方向に移動しているので、点Bにあるプレート部分はいずれ相模トラフへ移動する。 東から太平洋プレートが移動してくるので、点Bあたりの伊豆海溝ラインは西へ移動する。
・点Cの陸プレートは太平洋プレートよりも地殻が弱いので変形され押しつぶされる(三角形ABDに変形)。点Cあたりの日本海溝ラインも西へ移動する。
・沈み込む太平洋プレートは厚く固いため、三角形の穴には入り込めない。
・「三重会合点はフィリピン海プレートの移動で相模トラフに沿って北西進する」(p.107)ので、三角形ABCもまた相模トラフ沿いに三角形A'B'C'を形作っていく。

震源断層情報
防災科研(防災科学技術研究所)の初動解パラメータ・データ(「F-net 地震のメカニズム情報」)を使用して今回の対象範囲の震源断層情報を調べてみました。
図3-1内の点線で囲んだ検索エリア内で、1998年01月01日 - 2010年12月31日の期間(2011年東北地方太平洋沖地震の前)、 太平洋プレート内またはフィリピン海プレートとの境界で発生した地震を検索し、106件の震源断層データを得ました。 P軸の傾きが低角度58%、N軸の傾きが低角度74%、T軸の傾きが高・中角度で63%と、東北地方太平洋沖地震の前は逆断層型が卓越していました。
図3-2は同じ検索エリアで東北地方太平洋沖地震後、2011年03月11日 - 2017年08月31日の期間、 太平洋プレート内またはフィリピン海プレートとの境界で発生した地震を検索し、55件の震源断層データを得ました。 P軸の傾きが低角度75%、N軸の傾きが低角度60%、T軸の傾きが高・中角度で64%と、東北地方太平洋沖地震後も逆断層型が卓越しています。
東北地方太平洋沖地震の震源域から外れており、顕著な変化はみられない。

図3-1 東北地方太平洋沖地震前 図3-2 東北地方太平洋沖地震直後
図3-1 東北地方太平洋沖地震前 図3-2 東北地方太平洋沖地震直後

1998年1月1日 - 2010年12月31日
-軸の方位軸の傾き
N - SNE-SWW - ENW-SE低角度中角度高角度
P軸(最大圧縮応力軸)15件(14%)13件(12%)54件(51%)24件(23%)61件(58%)24件(23%)21件(19%)
T軸(最小圧縮応力軸)48件(45%)28件(26%)13件(12%)17件 (17%)39件 (37%)34件 (32%)33件 (31%)
N軸(中間圧縮応力軸)39件(37%)23件(22%)22件(21%)22件 (20%)78件 (74%)21件 (20%)7件 (6%)

2011年3月1日 - 2017年08月31日
-軸の方位軸の傾き
N - SNE-SWW - ENW-SE低角度中角度高角度
P軸(最大圧縮応力軸)10件(18%)9件(16%)31件(56%)5件(10%)41件(75%)11件(20%)3件(5%)
T軸(最小圧縮応力軸)17件(31%)8件(15%)10件(18%)20件 (36%)20件 (36%)17件 (31%)18件 (33%)
N軸(中間圧縮応力軸)27件(49%)9件(16%)9件(16%)10件 (19%)33件 (60%)13件 (24%)9件 (16%)

震源断層データの絞込み
注目する地震の震源断層パラメータは、
  2004/05/30、M6.7、緯度 34.1045、経度 141.8623、深さ 23km、走向 169°、傾き 25°
  2005/01/19、M6.8、緯度 33.9525、経度 141.9928、深さ 30km、走向 165°、傾き 44°
  2016/09/23、M6.7、緯度 34.3963、経度 141.8438、深さ 31km、走向 165°、傾き 36°
で、いずれも逆断層型です。これらの地震は、太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈み込み始めるところで発生しています。
検索する震源断層データのスペックは、逆断層型、傾きは低・中角度、走向はSまたはSWとしました。

震源断層フィルターの設定
直方体のフィルターを使って、震源断層データのパラメータが指定したスペックに適合するかどうかをチェックします。
試行を繰り返し、フィルターの形状は、約120×80×16 kmの直方体、走向が180°、傾きが40°、上面(図4で青色の網部分)の中心位置(灰色の球)は緯度34.00°、経度142.20°、深さ約5kmとしました。

震源断層データの検索期間を1998/01/01 - 2017/08/31に設定し、フィルター内のデータでも調和しない場合はカットして 30件のデータを得ました。 図4にフィルターに含まれるデータを描画しました。震源断層面の長さ・幅は拡大しています。

図4 フィルターによる絞込み 図5 スリップベクトル

震源断層群と仮想断層面
図6に震源断層群を描きました。
黄色の面が震源断層群から求めた仮想断層面(走向:180°、傾き:40°)です。

図6 震源断層群と仮想断層面

戻  る