震源断層領域への第2のアプローチ



地震の初動解スペックから類似スペックの分布を探っていると、地震の規模が大きいほど震源周辺の類似スペックの件数が少なくなる傾向がありました。 たとえば、2011年03月11日、茨城沖で発生した M6.8とM7.6(2011年東北地方太平洋沖地震の最大余震)の初動解(防災科研解析)を表1に示しました。
類似スペックデータの件数を調べると、M6.8の場合、M6クラス:7個、M5クラス:27個、M4クラス:59個、M3クラス:75個、計168個。
3・11の最大余震M7.6の場合は、M6クラス:0個、M5クラス:0個、M4クラス:2個、M3クラス:9個、計11個でした。
類似スペックの件数が多いと分布の広がりや連続性が分かりやすくなってきます。
そこで、大地震のスペックよりも類似スペック件数が多いデータからアプローチしていきます。

表1 Mainデータのスペック
年月日時刻震源 ()内は一元化データMag節面1節面2備考
2011/03/1115:15:3436.1208, 141.2525, 35(42.70)kmM7.626, 59, 89209, 31, 923・11最大余震 茨城沖 bs28761
2011/03/1116:14:5736.5572, 142.0413, 23(25.0)kmM6.815, 71, 81220, 21, 113茨城沖 bs28763

図1は、M6.8の類似スペックデータの分布を描画したものです。連続的な広がりが見られる部分を赤色で示しました。

図1 2011/03/11 M6.8 類似スペックデータの分布

震源断層のつながり具合、連結を考えます。
個別の形状(ここでは断層面でなく、直方体)を求めてから連結可能か調べる方法だと、連結後の形状がぴったり合わない場合は複雑になってしまいます。そこで、連結可能なデータを先にピックアップしておき、データをグループ化することにしました。
Mainデータ 2011/03/11 M6.8と直接連結可能なデータの中から、2008/07/21 M6.1、2008/10/25 M5.0を選択しました(表2)。 2008/07/21 M6.1と2008/10/25 M5.0をMainグループに取り込むことで、図2にみるように、2011/03/11 M6.8 データのみの領域(赤色部分)をさらに広げることが可能です。

表2 Mainデータ群のスペック
断層型年月日震源 ()内は一元化データMag節面1節面2備考
逆断層2011/03/1136.5572, 142.0413, 23(25.0)kmM6.815, 71, 81220, 21, 113茨城沖 bs28763
逆断層2008/07/2137.1365, 142.3412, 29(27.38)kmM6.121, 67, 87208, 23, 97福島沖 bs24716
逆断層2008/10/2536.0033, 141.6315, 20(46.33)kmM5.013, 69, 78223, 24, 118茨城沖 bs25116

図2 Mainデータ群

Mainデータ群からそれぞれの連結データを求め(グループTargetデータ)、分布の連続性をチェックして震源断層領域を求めました(図3の黄色部分、表3)。 Mainデータ単独から求めた領域(赤色部分)を拡張した形状になっています。

図3 震源断層領域

表3 震源断層領域情報
領域断層型中心(緯度、経度、深さ)長さ高さ走向傾き備考
領域28763逆断層36.54, 142.06, 22.10km150km85km10km (固定)220°21°茨城沖 bs28763


震源断層領域と大地震

震源断層領域28763とその周辺に発生したM6以上の大地震の連結状況を調べました (表4、図4)。
・領域内部・周辺に震源があり、震源断層領域と連結しているM6クラスの地震は、
2003/04/08 M6.0 (表4のNo.05)、 2008/07/21 M6.1 (No.08)、 2008/12/20 M6.6 (No.09)、 2011/03/11 M6.8 (No.11)、 2011/08/22 M6.1 (No.12)、 2012/02/14 M6.0 (No.13) 2019/03/11 M6.0 (No.14)、 2021/08/04 M6.0 (No.15)。
・領域の延長(外部)に震源があり、連結しているのは、2005/10/19 M6.3 (No.06)。
・領域の周辺・外部に震源があり、連結はしていないM7クラスの地震は、
1938年に発生した塩屋埼地震(No.01、02、03)、 1982/07/23 M7.0 (No.04)、 2008/05/08 M7.0 (No.07)、 3・11地震の最大余震 2011/03/11 M7.6 (No.10)。
M7クラスの規模が大きい地震は、領域28763と連結はしていませんが、領域の周辺・外部で発生しています。

表4 震源断層領域28763と大地震
No年月日Mag走向、傾き、すべり角領域との関係備考
011938/05/23M7.0200°, 10°, 100°外部 連結NG (青)塩屋埼沖地震 茨城沖 bs02160
021938/11/05M7.5200°, 10°, 95°外部 連結NG (青)塩屋埼沖地震 福島沖 bs02250
031938/11/06M7.4190°, 80°, 270°外部 連結NG (青)正断層型 塩屋埼沖地震 福島沖 bs02270
041982/07/23M7.0190°, 9°, 80°外部 連結NG (青)茨城県沖地震 bs07372
052003/04/08M6.0208°, 22°, 98°内部 連結OK (赤)茨城沖 bs16365
062005/10/19M6.3209°, 22°, 94°延長 連結OK (水)茨城沖 bs20576
072008/05/08M7.0216°, 24°, 107°外部 連結不明 (白)茨城沖 bs24331
082008/07/21M6.1208°, 23°, 97°内部 連結OK (赤)福島沖 bs24716
092008/12/20M6.6194°, 26°, 115°周辺 連結OK (緑)関東はるか沖 bs25301
102011/03/11M7.6209°, 31°, 92°周辺 連結NG (青)3・11最大余震 茨城沖 bs28761
112011/03/11M6.8220°, 21°, 113°内部 連結OK (赤)茨城沖 bs28763
122011/08/22M6.1229°, 22°, 122°内部 連結OK (赤)茨城沖 bs33864
132012/02/14M6.0219°, 19°, 105°周辺 連結OK (緑)茨城沖 bs35579
142019/03/11M6.0233°, 23°, 139°内部 連結OK (赤)福島沖 bs47234
152021/08/04M6.0232°, 19°, 128°内部 連結OK (赤)茨城沖 bs50236
「連結OK」は、直接連結(リンクの次数 nth=1)、間接連結(リンクの次数 nth=2)を含む。

図4 震源断層領域28763と大地震
赤色:領域の内部で連結する 緑色:領域の周辺で連結する
水色:領域の延長で連結する 青色:連結しない 灰色:連結不明

今後の課題としては、地域の中で複数の震源断層領域を取り扱っていくこと。 そのためには連結条件の再検討、とくに震源断層領域の高さ(現在10km固定)を可変にしてコンパクトな形状を求めていくことが必要と考えます。

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